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7/25。鮮明な記憶が残る日付。

僕が敬愛して止まないTAKAHIROMIYASHITATheSoloist.から宮下貴裕氏がブランドを離れるニュースがファッション業界に激震を走らせた。


ブランド設立から15年。NUMBER (N)INEを脱退し新たなクリエイションを行う為に創作されたSoloistは数々の名シーズンを発表すると同時にファッション業界を牽引し、以前ブログでも書いた通り2025 Spring/SummerからTHE ELEPHANTでも取り扱いが始まったばかりであった。


実際僕が私物で所有している1stシーズンのボーダーTシャツや2015AWのrough outシリーズのmotorcycle jacketに関しては大袈裟ではなく一生を通してクローゼットに並べていたいし、前シーズンのスタッズが並んだドットシャツを始め”洋服”というカテゴリーに収まらないくらいに大切な物だ。


そういった人間の感情を揺さぶる物作りをする、いや、”できる”のが宮下氏だと考えている。


そんな矢先のニュースであった為僕としては落胆する気持ちが浮き彫りになるのは当然なのだが、正直皆様に宮下氏が生み出す最後のSoloistとしての洋服をTHE ELEPHANTを通してお届けできるといった使命感に近い様な血湧き立つ感情の方がかなり強かった。


前シーズンに引き続き、「洋服の着方を正す」という精神は変わらないが、半年前に展示会に訪れた際、整列された洋服には今までとは明らかに違う空気感が漂っていた。

宮下氏の言葉を拝借すると2025年秋冬コレクション「THE BLACK -AND- WHITE REALISM」は宮下氏にとっての”コーダ”(終章)とのこと。

やはり彼のクリエイションは必ず最後まで音楽が付き纏う。


そんなラストを飾るコレクションがようやく店頭に到着したので満をじして紹介していきたい。

 

NOTCHED LAPEL 2B JACKET 

 

 

 

今回のコレクションは題名通り黒色と白色で統一されたモノクロームな世界観を演出しており、このベルベットのテーラードジャケットは今期を象徴するアイテムだ。

 

 

レーヨンとキュプラで贅沢に創り上げられ”漆黒”という言葉がマッチするこの生地に袖を通した瞬間、あまりにも柔らかく上品で”着る”よりも”羽織る”洋服だと認識させられるくらいのオーラを纏っている。

今までのファブリックでは味わった事がない高揚感に思わず背筋が伸びる、そんな一着に仕上がっている。

 

 

前シーズンでも採用されていた襟裏のレザーに宮下氏の職人ぶりが伺え、全く持って抜け目が無くどこまでも人を魅了する洋服を最後まで作り上げている。

ラペルにボタンもついているのでハイネックで着用してもより生地の面積が強調され引き締まる雰囲気になる。

昨今の洋服に色気が無いものが多いと語る宮下氏は、本コレクションを通しよりスウィートでロマンティックな物をと願い創り上げたという。

まさにその言葉通りこのジャケットはどこか甘く幻想的な作品に仕上がっている。

僕自身テーラードジャケットをよく好み多く所有しているが、この一着は間違い無く人生の特別な洋服になるであろう。

 

RAFFLE SHIRT

 

 

先程のスタイリングにインナーと使用していたこちらのシャツもフェミニンな表情を纏い軽やかでロマンティックな仕上がりになっている。

それもそのはずでレーヨンとシルクという贅沢なファブリックを使用し、全体のドレープ感にプラスでさりげない小ぶりなドット柄が可愛らしくかつ上品に収まっている。 

 

 

 

小ぶりなボウタイはエレガントな印象を与え襟口と袖口にラッフルを採用しどこか大人っぽくも少女のような儚く妖艶であり、スタイリングをマイルドに抑えてくれる。

モードが好きなエレファントのお客様は上手くコーディネートに差し込めるだろうなと。

スカートと合わしてよりフェミニンに持って行っても、先程の様にジャケットに合わせクラシカルな正装に操作しても十分に格を上げてくれるだろう。

 

HORSE RIDING COAT

 

 

今季のSoloistのコートは大胆なマキシ丈で創られ、19世紀末ごろから愛されているホースライディングコートの形を採用。

本来快適に乗馬ができる様に作られたホースライディングコートは雨風を凌げる様に当時はコットンギャバやオイルドコットンを採用していたが、こちらは街着に最適なギャバジンウールを贅沢に使用しモードな雰囲気が伺える。

また今現代にマッチする様に不要なディテールは排除されモダンに着用ができ、尚且つSoloistらしいギミックが追加され他の類を見ない仕上がりを紹介したい。

 

 

 

下半身部分に大量に打たれたドットスタッズは単なるディテールでは無くボタンになっており、正しく組み合わせる事によって膝下までのミドルコートへと変形することができる。

着用するそれぞれのニーズに合わせ表情を変化できる様は宮下氏らしい”クラシック”へのリスペクトと解釈でき、現代の多くの意味の無い洋服へ喝を入れる様なアプローチだと感じる。

大量のスタッズとマキシ丈のモードなニュアンスもミドル丈の優等生な一面も楽しめる贅沢なこのコートは、今年のメインアウターとして十分過ぎるくらいのチョイスになるだろう。

 

REGLAR COLLAR SHIRT

 

 

最後に紹介するのは今回のラインナップの中でよりカジュアルに楽しめるシャツ。

Soloistらしい丁寧な仕立ては言うまでも無いが、ご覧頂くだけでわかる只者では無いグラフィック。

学校の卒業式、日本では卒業アルバムの空白のページに友人たちが寄せ書きを書く文化があるのは周知だろうが、実際アメリカでは(今現代も続いているかは不明だが)Tシャツやカッターシャツに寄せ書きを残す文化があり、宮下氏自身がアメリカの古着屋で見つけた寄せ書きシャツを参考に現代に甦った一着になっている。

 

(↑実際6年ほど前に観た「シークレットオブハロウィン」という映画に不良達が寄せ書きをしたシャツを着用しスケボーをしているシーンがあったのを思い出した。)

 

 

実際に見つけたそのシャツのグラフィックがあまりにも良かった為文字や配色、配置をそのまま採用し襟裏の「FUN」と言った可愛らしいディテールには思わず微笑んでしまう。

「大人になんかなりたくない」と言った宮下氏のアティチュードを器用に再現し、どこかに少年心を忘れない子供っぽい要素はパンクなマインドも感じ、袖を通すだけで楽しめる一着に落ち着いている。

 

今回もローンチまでに顧客様の手に渡り完売してしまったアイテムも多くあるが、Soloistのラストシーズンを彩るラインナップに仕上がっており、こんな壮大で感慨深いブランドを皆様にお届けできるのが大変誇らしく思う。

宮下氏がNUMBER (N)INEへの復帰のニュースの続報を待ちたい気持ちと同時にSoloistの終章をエレファントを通して見届けたい。

最高の一着を是非。リスペクトを込めて。

 

 

福原幹二

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